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コラム

2023/05/08

コラム

農業経営

FOODBOX流|農業コンサルタントの実務

 昨今の世界情勢や消費者の価値観が大きく変化する中、これからの農業は「生産して出荷する」といった従来のやり方ではなく、「経営」や「ビジネス」の観点を養い、利益を追及することが求められてきます。また、それら事業課題の解決を生業とする大手コンサルファームの周辺に、業界特化型の中小規模のコンサルファームや事業が次々とのろしを上げています。

 本記事では、農業界に特化したコンサルティングを提供しているFOODBOXが実践する「農業コンサルタントの実務」を事例も交えてご紹介します。

農業コンサルタントとは

 初めに「農業コンサルタント」が聞き馴染みのない方もいると思うので、簡単に業種についてご紹介します。農業コンサルタントとは、農業分野における経営や販売、組織等の課題をコンサルティングの手法を用いて、解決に向けたサポートをする職種のことです。農業現場では法人化・株式会社化が加速していることもあり、課題解決だけでなく事業拡大に向けた伴走サポートを行うケースも増えています。

 農業コンサルタントになるには、特別な資格は必要ありません。しかし、各作物の生産に関する知識、キャッシュフローやコスト意識といった農業経営に関する目線、法規制への理解等の専門性が求められるため、それらを体系的に会得できる資格「農業経営アドバイザー」や「中小企業診断士」等を取ることで、信頼に繋がることがあります。

農業コンサルタントはイメージが悪い?

 唐突なタイトルですが、一部の方(特に農家)からは、農業コンサルタントは胡散臭い、報酬が高い、現場を分かっていない…等、あまり良いイメージをもたれていません。以前、代表の中村が書いたコラムでもこのことについて言及しています。

30年以上農業に携わってきた私の父親に言わせると、
「農業コンサルタントとか辞めとかんか。うさんくさかし、絶対に食っていけん」
このように、食・農業界における「農業コンサルタント」のイメージは、すこぶる悪いです……。
誤解を恐れず自戒を込めて言わせていただくと、「報酬に見合った成果を出せない、腰が重い“口だけコンサルタント”が多い」からであると、私は考えています。

「農業コンサルタント」のイメージが悪いのはなぜか【フードカタリスト 中村圭佑のコラム 第1回】より

 実際に農業界でコンサルティング事業(FOODBOXでは”フードプランニング事業”と称しています)を興して4年目になり、中では前述のようなイメージをもたれている方もいましたが、有難いことに全国の農業生産法人や企業、自治体からお声掛け頂いています。それは、ひとえにクライアントの要望を第一に考え、現場へ足を運び、計画に留まらず実行まで伴走するスタイルを貫く「FOODBOX流のコンサルティング」を追求した結果だと考えています。

FOODBOX流の農業コンサルタントの実務

 前置きが長くなりましたが、本題の「FOODBOX流の農業コンサルタントの実務」について図やフレーム等を使いながらご紹介します!今回で全てをご紹介することはできませんので、特に私たちが強みとするこちらの5つの業務に絞りました。(※業務のフローではありません。)


  • ・課題や論点の整理、特定
  • ・ソリューションの検討、明確化
  • ・徹底した進捗管理(プロジェクトマネジメント)
  • ・成果にコミットした実行支援
  • ・共通言語を持ったコミュニケーション

課題や論点の整理、特定

 課題や論点の整理、特定は、基本的にどのプロジェクト案件においても最初に着手します。

 企業からのご相談で最近多いのは「新たな事業領域として”農業”を検討しているが、どんなビジネスが良いか分からない」というケースです。ある程度新事業の目星を付け、チームを発足しているものの、情報が断片的で前進できずに足踏みしている状態の企業が多いと感じます。この場合、課題が複雑に絡み合っていたり、論点が不明瞭のまま議論が進んでいたりするので、現状理解のために1.5時間~のヒアリングを最低でも3回は行い、可能であれば対面でも実施します。そもそも目星を付けている事業が最適なのか?や、ゼロから作るのが最適なのか?等の前提から細部に渡ってスピーディーに見直ししていきます。

ソリューションの検討、明確化

 課題や論点が整理、特定されたら具体的なソリューションの検討、明確化に入ります。

 特に新規で参入する際に意識しなければいけないのは、農業は「作物」「地域」「気候」「土地」「面積」等、他の業界に比べて”変数”が多くあり、一般化することが非常に難しいことです。反対に、小さなビジネスチャンスは多く眠っていると前向きに考えることもできますね!初めから決め打ちすると考えも凝り固まってしまうので、アイデアベースで構想を広げつつ、最終的にはコア・コンピタンスが生かせる案事業領域拡充の目的が達成できる案に的を絞っていく、というのがこの業務のポイントです。

 最近のトレンドとして、0→1(ゼロイチ*)で事業を興すのではなく、既存のプレイヤーとの提携やM&A、出資、ジョイントベンチャー**等、農業事業への参入方法にもバリエーションが増えてきました。

*: まだ世の中に存在しない製品やサービス、価値を作り出すことを意味する。
**: 共同企業体。複数の異なる企業等が共同で事業を行う組織のこと。

徹底した進捗管理(プロジェクトマネジメント)

 私たちが提供するコンサルティングの中で、特に進捗管理(プロジェクトマネジメント)は徹底しています。初手として下図のようなWBS(Work Breakdown Structure)を作成し、日々進捗確認を行います。最近では、Excelファイルではなく、複数人で同時編集ができ、常に最新版をクライアント含めたメンバー全員に共有できる「スプレッドシート」を活用しています。スケジュールや役割分担を確認できるだけでなく、クライアントとスコープや目標達成に向けたプロセスに対する、共通認識を持つことができます。

WBSのイメージ

 案件によっては、クライアント × 農家 × (x) × (y)…などと、ステークホルダーが複数になる場合があります。そのような場合には、各ステークホルダー毎に窓口となる専属メンバーの配置や、窓口を一つにする等しています。FOODBOXのメンバーも各々得意な領域がありますので、ベストパフォーマンスができるようにチーム編成を考えています。

チーム編成のイメージ

成果にコミットした実行支援

 これまでのプロジェクト案件を振り返っても、「事業計画の策定」を担わせていただくケースが多くあります。しかし、私たちが常に心掛けているのは、計画策定だけで終わるのではなく、その先の実行も伴走することです。勿論、予算的に中長期で支援させて頂くことが難しい場合もありますが、計画が机上の空論で終わることがないように実行フェーズも含めたサポートを行っています。

  • ・地権者への農地賃借手続きの交渉
  • ・地域の農家とのコミュニケーション及び提携
  • ・栽培マニュアルの作成
  • ・収支シミュレーションの作成や更新
  • ・加工品の製造委託先の調査、選定
  • ・営業資料の作成
  • ・営業先のロングリスト作成
  • ・商談の同席、折衝
  • ・PoC***に向けた準備、実行、振り返り
  • ・資金調達の実行(補助金申請・クラウドファンディング実施) 等

***: (Proof of Concept)新たなアイデアやコンセプトの実現可能性、それによって得られる効果などについて検証すること

共通言語を持ったコミュニケーション

 最後にご紹介するのが「コミュニケーション」です。これがコンサルタントの実務なのかと思う方もいるかもしれませんが、農業は地域・人と密接に関わっているため、コミュニケーションは欠かせないビジネススキルです。農家や地域(自治体や生産組合)と共通言語・共通認識をもってコミュニケーションができるかどうかによって、プロジェクトの進捗に影響が出てきます。

 過去に、ある県の養蜂協議会とのプロジェクト案件で、養蜂家との間に生じた”コミュニケーションの壁”を克服した経験をご紹介します。経験談をお話する前に、少し養蜂業界について触れさせてください。

 養蜂は、巣箱を蜂場(ほうじょう/野菜栽培で言うところの圃場)に設置し、ミツバチは蜂場の半径約2kmの範囲を飛行して植物から蜜を集めます。近年では、ミツバチの天敵が増えたり、養蜂業を生業とする人とは別に趣味で養蜂を楽しむ方も増えたりしていることから、蜜源となる植物や蜂場の奪い合いが起きています。昨今の不景気もあってか、夜間に蜜がたっぷり入った巣箱を盗んで金銭に替える「蜂泥棒」も増加しています。このように養蜂家の生活が脅かされるため、情報の取扱いに対し、センシティブになる人が多くいらっしゃいます。一方で、国の方針としては他の農産物と同様に、養蜂や蜜源植物の植栽状況等に関する「情報」をデータ化するために予算を組む動きが進んでいます。

 そんな中、ある県の養蜂家からのご依頼で、県の養蜂協議会と連携して、実態把握を目的としたアンケート調査を実施しました。調査自体も前例がないため、何度も協議会の会議に足を運び、協議会に所属する養蜂家とどんな情報を、どのような形式(選択肢か自由記述か等)で取得していくか一つ一つ議論を重ねました。最初は、やはり情報開示に難色を示される方も多くいましたが、第三者であるFOODBOXが情報を収集し、協議会メンバーへ開示する際は匿名性を保った形へデータを加工することを丁寧に伝えることで、取り組みへの理解を頂けました。


 これは一事例に過ぎませんが、全国各地へ訪問していると、作物や年齢、土地柄によってコミュニケーションの取り方を変える必要性を感じます。繰り返しになりますが、農業は地域・人と密接に関わっているため、コミュニケーションは欠かせないビジネススキルの一つです。

支援事例

 この章では、過去の支援事例についてご紹介していきます。クライアント情報の公表が難しく、現在実行フェーズの案件もあるため、ご紹介する事例はニーズ調査が中心となっております。ご了承ください。

事例1:農業用ドローン市場・ニーズ調査

【企業が抱えていた課題】
依頼企業は、農業用ドローン開発を行う国内企業Xに出資しており、農業用ドローンの市場性、販売可能台数等を判断すべく調査を求めていました。

【解決アプローチ】
そこで、農業用ドローンを導入する可能性の高い、米・麦・大豆を合計50ha以上を栽培する大規模農業法人または、既にドローンを使用している農業法人等の30社をターゲットとした30分の電話インタビューを実施。

【達成した成果】
約4週間で30社のインタビューを含む、全自動ドローン導入意向の割合やその価格に対する許容度、ドローンを利用することで得られるメリットに対する認知の傾向を依頼企業に提供することができました。また、今後導入を増やしていくためのアプローチや課題に対する議論も充実しました。

事例2:農産物(園芸品目)売上向上に向けた小売業者及び卸業者のニーズ調査・論点整理

【依頼主が抱えていた課題】
依頼主は、官民一体で農作物等の産出額を引き上げる取り組みを推進しており、今後の普及品目を策定するための参考情報を求めていました。

【解決アプローチ】
現在トレンドとなっている作物を明確にするための有識者へのヒアリングと、その補強としてデスクトップ調査を実施。

【達成した成果】
市場トレンドの観点と、生産地の強み(気候条件、地理的条件等)の観点から、戦略品目の特定を行い、次年度以降の具体的な戦略推進の土台を整えることができました。本案件は現在実行フェーズに移り、進行中です。

事例3:農家向け新規webサービスのニーズ調査及びPoC実施支援

【企業が抱えていた課題】
サービスの構想がある程度固まっている段階でしたが、ユーザーである農家へのニーズ調査に係るリソースが不足しており、PoC実施に至る事業仮説が立てられない状態でした。

【解決アプローチ】
弊社の農家ネットワークを活用し、ヒアリング調査・実地検証(九州3件・関東3件)を実施。加えて、調査・検証結果を基に、PoC計画策定及び実施をサポートしました。

【達成した成果】
ヒアリングに加えて、実地検証を行ったことにより、ターゲットやサービス利用シーン、顧客体験価値等の仮説検証がよりブラッシュアップされた状態で、PoC計画を実行に移すことができました。

 事例をご覧になって、ご質問がある方や、既に構想があって意見交換等をご希望の方は是非下記のボタンよりお問い合わせください。


カジュアルに相談する

農業コンサルタントに求められていること

 農業コンサルタントに求められていることは、大まかに分けて以下の2点だと考えています。

  • ① 夢物語のような事業計画ではなく、現場オペレーションや地域・作物に合わせた正しいアプローチ方法等、農業現場に寄り添った実行可能な事業計画を作ること
  • ② 農業生産法人一社の経営改善(個別最適)だけをするのではなく、それによって地域の農家や企業へ波及効果を生み、地域全体で最適化を図ること

 ①は、主に企業に求められる農業コンサルタントの役割です。通常のコンサルタントが作る事業計画は、農家及び農業を一律で見ているため、現場に落とし込んだ時に実行が難しいケースが多くあります。農業の事業計画は、現場で資材を準備して、歩留まりがどれくらいで、人的リソースを確保して、現実的な作業オペレーションを組んで…と、現場からの積み上げで作成しなければ、堅実な目標設定ができず、正しいアプローチを見極めることもできません。

 例えば、「2023年にサツマイモの生産をスタートして、2026年末までに年間生産量を1千トン」と言われて、単純に毎年250トン 生産量を増やす計画が成り立つでしょうか?答えはNOです。仮に圃場と人手が確保できても、十分な苗が仕入れられなければサツマイモの生産はできません。苗の仕入れ先も、リスク分散のために複数社と取引した方がベターなので、業者を探さなければいけません。このように、目標達成までのマイルストーンを細分化して、正しいアプローチ方法を模索することが農業コンサルタントに求められる役割だと考えています。

 ②は、主に行政や農家に求められる農業コンサルタントの役割です。一農業生産法人の経営改善をサポートした先に、周辺の農家や企業へどのような波及効果があるのか?地域の産業にどのようなメリットが生まれるのか?等、視座を高める必要があります。リーダー格の農家の間では「自分たちだけが儲かれば良い」という考えは最早 時代遅れで、地域全体の底上げを目指す方がほとんどです。

 一つ、分かりやすい好事例をご紹介します。ある地域のリーダー格の農家が、初めは周辺と同じ金額でイチゴ狩りを提供していましたが、掛けている手間とコストを引いても利益が残らないことに悩み、思い切って20%程値上げをしました。すると、周辺のイチゴの観光農園も同じ水準まで一斉に値上げし、全員から「値上げしてくれてありがとう」と感謝されたそうです。どうやら、ずっと値上げしたかったけど、互いに様子を伺うばかりでなかなか踏み出せなかったそうです。それからは、互いを敵対視するのではなく、そのリーダー格の農家を中心に、同じ作物同士で悩みを共有し合える良き経営者仲間になっています。

 これからの時代、このようなムーブメントを起こすためのきっかけ作りが農業コンサルタントには求められるのではないかと考えています。

農業コンサルタントに相談するには

 これまでご紹介してきたように、農業には様々な変数があり、更には生産→加工→流通→販売と商流も非常に長いため、全体感を把握するにはかなり苦戦を強いられます。そのため、プレイヤーの入れ替わりも激しく、成功事例は他の業界に比べてもまだまだ少ないと言えるでしょう。撤退していった事業には、課題や論点整理が不十分だったり、フレキシブルにソリューションを転換できなかったり、現場とのコミュニケーションが上手くいかなかったりと、未然に防げた問題が多くあったと思います。

 単独での事業推進に少しでも不安があれば、お気軽にご相談ください。皆様と一緒に、様々な角度から農業界を盛り上げていければ嬉しいです!


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